総合的な(探究)学習の時間、通称「総合」は、新学習指導要領で「よりよく課題を解決し、自分の生き方を考える」力を育成するものと位置づけられて、数年が経過しました。各校では今までやってきた実践をアレンジしたり、新たな取り組みを加えたりして様々なチャレンジがなされていると思います。
一方で
・探究学習をやるべきってきいたけど、何やればいいの?
・自主的に取り組ませることが大事らしいけど、教員は見てればいいの?
などといった「そもそもどうしたらいいの?」というモヤモヤした悩みをお持ちの先生方もいると思います。
今回はそんな先生方に「総合」を教える上でかかせない探究学習とその4つのステップをご紹介します。
探究学習の4つのステップ
1 はじめに~探究学習は優秀~
他教科でも実践が可能な探究学習ですが、現在「総合」においてそのウェイトは増しています。なぜなら国から求められている教育方法であり、その効果が確認されているからです。
令和4年に文科省より出された「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」では探究学習では今回の指導要領改定について次のように言及されています。
今回の改訂においては、「横断的・総合的な学習」を、「探究的な見方・考え方」を働かせて行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための「資質・能力」を育成することを目指している。(中略)探究的な見方・考え方を働かせるということは、これまでの総合的な学習の時間において大切にしてきた「探究的な学習」の一層の充実が求められていると考えることができる。
(引用:『今、求められる力を高める』総合的な学習の時間の展開(中学校編)総合的な学習(探究)の時間:文部科学省)
このように国としても探究的な学習つまり探究学習を推進していくことを求めているとがわかります。
では、その探究学習ではどんな力が付くのでしょうか。先ほどの「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」から次の一節を紹介します。
育成を目指す資質・能力の三つの柱のうち、主に「思考力、判断力、表現力等」に対応するものと しては、実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、 まとめ・表現するという、探究的な学習の過程において発揮される力を示している。
(引用:『今、求められる力を高める』総合的な学習の時間の展開(中学校編)総合的な学習(探究)の時間:文部科学省)
つまり、探究学習は思考力、判断力、表現力等を発揮する機会をつくり、生徒たちのそれらの力をぐんぐん伸ばすポテンシャルをもった活動といえるのです。
では、探究学習はどんなもので、どうやって進めていけばいいのでしょうか。次に、どの単元、題材でもこれだけ覚えておけば、探究学習にできるという「探究学習の4つのプロセス」をご紹介します。
2 探究学習の4つのステップ
では探究学習はどのように進めていけばいいのでしょうか。
それを知るためには研修などで示される次の図がヒントになります。
(引用:『今、求められる力を高める』総合的な学習の時間の展開(中学校編)総合的な学習(探究)の時間:文部科学省)
上の図は生徒の学習の姿を図で示したものです。子どもたちは探究学習の4つのステップを繰り返し行い、1つの大きな課題の解決を目指す、もしくは発展的な課題の解決へとつなげていく様子が示されています。
この中で特に注目してほしいのは探究学習の4つのステップです。
上図で示されている言葉をそのまま使って説明してもいいのですが、より具体的な活動がイメージできるように、下の図のように「課題の設定」「原因の分析」「解決案を立てる」「解決案の検証」という4つ言葉を使い、4STEPを再構築しました。
(上図を元に探究のミカタが作成)
①課題の設定
課題の設定では、生徒が実社会や実生活に向き合う中で、自ら課題意識をもつことが大切だと言われています。
ただ、これが簡単なようでとても大変です。実社会に対して課題意識を授業前からもっている子どもはあまりいません。高校生でも少ないように感じます。だからこそ、教員には導入の段階で彼らの心を少しでもゆさぶる仕掛けをつくることが求められます。
例として「修学旅行で京都市と〇〇市の観光地の違いを見つけて、〇〇市の観光の課題を考えよう」などのテーマを修学旅行のときに設けることがあげられます。普段と違う場所にいるからこそ、自分の住んでいる町の課題に気付くことができます。修学旅行を住んでいる場所から離れる貴重な「体験」の場だと捉え、その中に探究学習を入れ込むことで、生徒の課題意識を呼び起こすことができます。
このテーマの場合、「京都の方が圧倒的に外国人が多い」「バスの来る本数も多い」「お土産がかわいいものが多い」などいろいろな気づきを生徒は持って帰ってくるでしょう。それらを友人と検討した後、自分の市の課題は「外国人観光客が少ない」と設定することができます。
このようなテーマを経て、生徒自身が設定した課題に対しては子どもが「必要感」をもって取り組むことができ、自然と主体的な学びとなっていきます。全ての子どもにヒットする手法とは限りませんが、教師が「こんなテーマを体験のときに設けたら、生徒の考えが広がるかも」といった仮説をもち、仕掛けていくことが生徒の必要感、主体性につながっていくのだと思います。
②原因の分析
①で生徒が設定した課題に対して、次はその原因を分析します。「情報収集」というと少し漠然としてしまいますが、自分の設定した課題がなんで「課題」となっているんだろう?と調べる「原因の分析」活動だと位置づければ、必要な情報の方向性がしぼれると思います。
どうやって分析するかというと、「なぜ」を深掘りすることが基本になります。
車のトヨタでも有名な「なぜなぜ分析」や『今、求められる力を高める』でも紹介されている「フィッシュボーン」を用いることが有効だと思います。
(引用:『今、求められる力を高める』総合的な学習の時間の展開(中学校編)総合的な学習(探究)の時間:文部科学省)
外国人観光客の例の場合、「なぜ外国人観光客が少なくなっているのか」や「外国人観光客が少ないとなぜ問題なのか」という原因と結果の2方向の分析を深く行うことで、分析に深みが出ます。これを考える上では、市のHPを見たり、市役所や観光協会の職員の方にインタビューをすることが有効になるでしょう。
・外国人に向けにお知らせを作っている人が少ない
・外国人に向けたお知らせの量が不十分
・外国人観光客に〇〇市の観光地を知ってもらっていない
・外国人観光客が少ない (中心)
・他市に外国人観光客が流れる
・市の収益が下がる
・自分たちの暮らしの質が相対的に下がるかも⁉
このように、得られた情報を元に課題が発生している原因をロジカルに分析することが解決の第一歩だといえます。
③解決案を立てる
②で生徒が原因を分析したあとは、その原因を解決する手立てを考えます。
ここで大切なのは「1手でその課題が完全に解決できるスペシャル技」を考えるのではなく、「数%でも課題が改善できる&生徒自身の手で(一部分を)実行できる解決策」を考えることです。
探究活動は課題の完全解決ではなく、探究過程で思考力等を育むことが目標です。完全解決という途方もないことを目指してしまうと、生徒にやれることは限られているため、思考を辞めてしまう子が多く現れます。ここは教員側がしっかりと把握し、必要に応じて生徒たちに何を目指すのかはっきりと伝えてあげるべきだと思います。(もちろん、伝え方に配慮はほしいと思います。)
先ほどの例だと「外国人観光客が少ないのは海外向けのPRコンテンツが少なく、目につかない」ことが原因だと仮説が立てられました。その場合、解決案としては「海外向けのコンテンツを作成し、PRする」ことが考えられます。具体的に「youtubeに〇〇市のPR動画を英語の字幕付きで作成する」ことを選択する生徒もいるかもしれません。
原因の分析を元に、解決方針を定め、具体的に自分にアクション出来ることを考え、その具体物を作成することがこのプロセスでは求められます。〇〇への提言にとどまらず、自分たちが課題解決のためにアクションした方が、人任せな活動でなくなり、主体性が高まると考えられます。
④解決案の検証
③で解決方針とその具体策を考え、具体物を作成したあとはそれを「検証」することが大切です。私自身の反省でもありますが、総合の実践では得てして、③で活動が終わるケースも多くあります。しかし、この時点では解決案はまだ「妄想」の段階です。考えっぱなしではいけないのです。これを正解(解決可能性が高い状態)に近づけるためには検証が欠かせません。
検証では作成した具体物(動画、イメージ図、アイディアシート、ポスター、パワポ…など)を課題に関係する人に見せ、そのフィードバックをもらうことが考えられます。最初の段階では「発表」というより「インタビュー、アンケート」に近いものなので、ガチガチに発表資料をまとめなくてかまいません。むしろ完成に時間をかけるよりも、どんどんインタビューやアンケートをした方が、早い段階で自分の解決案の矛盾や課題に気づけるのです。
英語のビジネスの格言に「Start small, Fail early, Learn fast」というものがあります。これは「小さくてもいいからとにかく始めて、失敗から早く学んで先に進もうよ!」というメッセージなのだそうです。このメッセージは探究学習においても通じていると思います。検証を経て、指摘してもらった内容をもとに次の課題を設定します。
「youtubeに〇〇市のPR動画を英語の字幕付きで作成する」という案をもった子どもは、検証のときには短い動画を作ってもいいですし、そんな時間が無ければコンテのような動画の構成案をつくり、見てもらうとよいと思います。例えば、市役所の方に見てもらえれば、「似たものを〇〇課がつくっていたよ」「英語圏のヒトより、中国や韓国の人が来ることが多いよ」などのフィードバックを得ることができます。
動画編集に時間をかけすぎたあとに、このようなフィードバックをもらっても「え~めっちゃがんばったのにもうあったの?」「英語の字幕つくるの大変だったのに、意味なかったのか!」などとショックを受けます。時間的にも精神的にもしんどいので、早めに失敗しておくのが大切なのです。
3 まとめ
いかがだったでしょうか。「探究学習は調べ学習と何が違うの?」と聞かれることがあるのですが、その違いは「調べて終わらず、解決しようとします!」といったポイントだと思います。
教材を準備する時間がない、カリキュラムの中に入れ込む時間がないなど先生方が抱える悩みは多くあると思います。ですが、この探究学習の4つのステップという型に、既存の学習(職場体験、修学旅行、フィールドワークなど)を当てはめ、探究学習の要素を強めることは割と取り組みやすいと思います。
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